CareerFly 羽二生知美(以下羽二生):本日は、2020年4月にcanow株式会社を設立されました、代表取締役CEO桂城漢大さんにお話をお伺いします。
本日はよろしくお願いします。
canow株式会社桂城漢大氏(以下桂城氏):よろしくお願いします。
ブロックチェーンを使って、社会課題を解決する
羽二生:まずは、貴社のビジネスについてお伺いできますか?
桂城氏:我々は、ブロックチェーンを使って、社会貢献をデザインすることをビジネスにしています。
社会貢献というと、社会課題を解決することですが、持続可能性が問われることがあります。そこには難しさがあります。
NGOやNPOなどの社会貢献団体の場合、活動費用を寄付等で募ることが多いですが、その場合運営団体がやりたいことよりも、多額の寄付をした人の意向が汲み取られてしまうことがあります。そうすると、本当に運営団体がやりたいことや、本当の社会貢献になりにくい。
これらの解決のためにブロックチェーンを活用して、意思決定機関を作らない、ピラミッド式の組織構成を作らせないことを実現します。これまでの組織をブロックチェーンに置き換えることで、システムや制度を、本当にやりたいことのために使えるようにしたいと思っています。
羽二生:なるほど。実現できたら、社会課題が大きく解決できそうです!
具体的にはどのように事業を進めていかれるのですか?
桂城氏:いくつかサービス・プロジェクトがあります。そのうちの一つが、「Hachi」。ロゴの∞は、蜂の動きである8の字と、infinity 、あとはhatch (孵化)するという言葉をかけています。インキュベーターとしては、事業を孵化させていきたいという意味が込めれています。
ゆくゆくは、日本全体にデータバンク(情報銀行)を造る構想を描いてます。今、政府がやろうとしている情報銀行は、情報信託銀行の略で、皆さんの個人情報を第三者が一旦預かり、皆さんの代わりに意思決定をして、その情報を出し入れするものです。個人情報の価値が叫ばれる中、時代と逆行していると感じます。
私が考えているデータバンクは、個人が個人情報をより使いやすくするイメージです。
例えば、新しくジムの会員登録をするとき、名前やメールアドレス、住所、生年月日、口座番号などを細かく記載した上で、何かIDとなるものを見せたりしますよね。
また、病院に行けば、お薬手帳は個人で紙ベースで管理していて、他の病院に行けば初診になって新しく問診票を書く必要があります。
これが、例えば、一つのブロックチェーン上に、免許証もパスポートも、病院の登録情報も、ジムの情報も載っているとすると、いちいち様々な情報を開示することなく、個人が特定できて必要なサービスが受けられるようになります。
他にも、ブロックチェーンやトークン(仮想通貨)は、マーケティングに対してとても有効なツールです。すでに大手の日本企業様ともいくつか取引をスタートさせています。
海外ユーザーを取りたいニーズであれば、予算を10分の1、多いときには50分の1まで下げられるからです。
日本ではまだ普及をしていないトークンですが、インドネシアやベトナムなど海外ではすでに活発なマーケットになりつつあります。
70億人のマーケットを、日本から取りに行く
羽二生:ブロックチェーンは本当に可能性が大きい技術ですね。
ブロックチェーン技術を用いてビジネスをしようと考えたきっかけはなんでしょうか?
桂城氏:何カ国か海外を周った時、ペルーに滞在したことがありました。
そこで、不平等や、社会の歪みのようなものを目の当たりにしました。
それを見て、何かしたいなとずっと考えていました。
そんなとき、トークン(仮想通貨)・ブロックチェーンの存在に気づき、前職であるIFAに入社しました。ピラミッド組織を作らない、新しい仕組みを作ることができると思ったのです。
羽二生:なるほど。事業発起のルーツが海外にある桂城さんが、グローバルに事業を進められることはある意味必然であるようにも思えます。他にもグローバル展開される理由や意図はありますか?
桂城氏:まず、マーケット規模です。
日本からユニコーン企業が輩出されにくい理由として、1億人のマーケットしか視野にないことが挙げられます。世界を見ると70億人のマーケットがあるにも関わらずです。
それぞれ業界が違い、70億人取れないにしても、英語だけで攻められる範囲は国内とは比較になりません。そうすると、リーチできるパイが違うので、一つマーケティング企画を打つにしても、コスパが格段に良い。
日本は、すでにあるものを日本用にフィットさせることにはとても長けていると思います。まずグローバルで攻めて、日本に持ち帰る方が、事業拡大も早いと考えます。
成果に実直に、手段にとらわれずに動ける人材が強い
羽二生:貴社のビジネスは、地域にとらわれずグローバルに展開されています。戦う上で、大切だと感じている「マインド」とは?
桂城氏:まずは、「無理」「できない」と言わないということ。思っても言わないことですね。そうすると、やるしかないので、どのようにできるようにするかというスタンスに変わります。
例えば、日本にいる弊社メンバー10人のうち、半分は英語がビジネスレベルではありません。英語が話せなかったメンバーの一人は、どんどん小さい仕事から英語を使う機会を与えてみました。結構過酷な状況だったと思いますが、彼女は食らいついて、一年半ぐらいでみるみる成長していきました。
今では、もちろんニュアンスや細かい部分の誤差はあるものの、海外との仕事も一人で任せられるようになってきました。
すごいなと思います。マインドがあればなんとかなるし、逆になければ生き残れない。そういう成功事例ができました。
二つ目は、「柔軟性」です。
他の国の人々と仕事をすると、仕事のスピード感が違います。
同時に、突然変更が発生することがあります。
変更が発生したことに文句を言う、執着するのではなく、
変更に柔軟に対応して考えられるかどうかで、大きく結果に影響します。
桂城氏:最後に一番大切なこと、「責任を持つ」ことです。
「やりたいことがある」ことがまず前提ですが、その上で、やりたいことに責任を持てる人がグローバルで戦える人材です。
例えば、弊社でアメリカの企業とのプロジェクトリードを担当しているデンマーク人のマティアスは、デンマークや中国の企業で働いていた経験があります。
彼からすると、結果を出さない=首を切られるということが当たり前の感覚のため、結果へのコミット、意識の差が圧倒的に違います。
日本は会社が守ってくれます。canowも日本企業なので、会社が守ります。
でも、それだとグローバルでは勝てません。
弊社では、社員の意識をグローバル企業に寄せるため、人事制度や社内規則は外資系企業からヒントを得ています。
羽二生:なるほど。責任をもって仕事に取り組める人材が、グローバルで活躍しているイメージは確かにあります。昨今は大手中国企業では、up or out の風潮が強く、日本以上に激務であるとも聞きます。そんな過酷にも思えるグローバルな環境で、生き抜ける強い組織とは、どのような組織でしょうか?
桂城氏:「超優秀な人を引き止める必要がない組織」だと思います。つまり、優秀な人が勝手に入ってくる。別にその人がいなくても他の人がいる。という状況です。
そのためには、経営層がやりたいことを、メンバー一人一人のやりたいことまで落とし込めていることが必要です。
一方、真逆の組織は、特に理由はないけれど、他に仕事がないからここにいるというメンバーがいる状況です。
羽二生:自分がやりたいことが明確であることは、どうして強い組織につながるのですか?
桂城氏:自分がやりたいこと=会社がやりたいことまで落とし込めていると、仕事が自分ごとになります。そうすると、仕事に言い訳がいらなくなる。なんでもいいと思います。目指すポジションがある、などでもいいです。そうすると、なりたい姿になるための手段を自身で考えて行動します。
これは、マインド面で大切な、「責任を持つ」部分にも繋がります。
経営層が、グローバル企業になる覚悟を持てるか
羽二生:経営層が強い組織を作るにあたって気をつけることはなんでしょうか?
桂城氏:グローバルで活躍できるマインドを持った優秀な人材を受け入れる覚悟でしょうか。
そのような優秀な人材は、成果への圧倒的なコミット力と、合理性を備えています。
そのために足枷になるような慣習は嫌うことが多いです。
それを受け入れる覚悟があるかどうかです。
弊社社員の一人は、とても優秀ですが、仕事の途中で2時間ぐらい寝ていることがあります。それでもいいのです。仕事が終わっているのですから。むしろ彼が寝ていないと、仕事が終わっていないということで心配なぐらいです。
また、他の社員は、天気の不快指数が高い時にはバス代を出すことにしています。これは彼自身から申告があり、検討したものです。
暑くて湿度が高い時には、パフォーマンスが落ちる。できるだけ落とさないためにバスに乗りたいとのことでした。
一般的な日本企業では、仕事中の睡眠はタブー、一人一人の体調に合わせて特例の交通費を出したりしないでしょう。でも、なぜそれを受け入れられないのでしょうか。
合理的に考えたら、それぞれの社員が一番パフォーマンスを発揮できる環境を作ることが大切だと思います。
社員の声を吸い上げ柔軟に人材や環境の整備を受け入れられるかが、一番重要だと考えます。
外資企業と変わらず、日本で不自由なく働ける環境
羽二生:デンマーク出身のマティアスさんに少しお話を伺います。実際に貴社の働く環境をお伺いしても良いでしょうか?
貴社の社風はどうですか?
マティアス氏:私は、ブロックチェーンという考え方や、それが実現できる世界観にとても興味を持ち、桂城さんの前職であるIFAからジョインしました。
パートナーと来日してから、日本で仕事や生活をする中で、日本語がこんなにもハードルになることを知り、とても驚きました。幸いにも桂城さんが英語でコミュニケーションが取れる方で、仕事においても不自由ないように配慮してくれました。お陰で快適に仕事をすることができています。
社風や環境は、これまで経験した海外の企業と変わらないように思います。日本で働く友人の話を聞くと、仕事に関係のない部分で時間を割かれたり、言語面でも不自由があったりするようですが、弊社ではそのようなことは一切ありません。
羽二生:桂城さんがこだわっている環境整備のおかげで、優秀な社員の方々がのびのびと仕事ができているのですね。マティアスさん、ありがとうございました。
桂城氏:実際に社員にも目指している組織の環境を感じてもらえていて、良かったです。
地政学的リスクを軽減できる、グローバルな事業展開
羽二生:貴社では、外国にもメンバーがいらっしゃり、また海外の法人ともプロジェクトを進められています。メリットを教えてください。
桂城氏:弊社で扱うブロックチェーンや仮想通貨はまだ新しい技術であり分野であるため、法律が各国で変わりやすい点がリスクになります。
複数国にわたってビジネスをすることで、リスク分散ができ、ビジネスとして安定した運営ができています。
また、ブロックチェーン・トークンを活用したインキュベーション企業は日本にまだ少ないです。世界中の企業が日本のマーケットを狙う際に、問い合わせを弊社にいただく機会が多くあります。ビジネスチャンスが海外から来る時、多国籍チームであったり、他の国に頼れる人たちが多いことはメリットです。
羽二生:デメリットを挙げるとしたら?
桂城氏:海外企業と日本企業をつなげる時に、まだまだ調整役として入ると大変なことが多いです。例えば、日本は書類文化で、詳細まで詰めながらプロジェクトを進めて行きますが、海外では詳細が詰まっていなくても、大枠方向性がわかる、要点がわかるような状態で話が来ることがあります。
また、融資を日本企業から募る時、提出する書類が多く、海外企業に修正を依頼する回数が増える。そうすると、海外側としては「遅い」となり、日本企業としては「正確ではない」となり、破談するケースもありました。
少数精鋭なメンバーで、たくさんの企業と仕事をする
羽二生:グローバルな組織にすることは、メリットが多いですね。今後もより強い組織を作られると思いますが、理想像はありますか?
桂城氏:社内は少数精鋭を維持し、社外で様々な法人と組んでいきたいと思います。
日本は中小企業が多く、その中でお金のパイを取り合っている。その背景から海外と比べると高給取りが少ない。
であれば、企業を一つの巨大な資本にまとめ、利益を各法人に割っていく、その方が幸せになれるのではと思うのです。
難題があったとしてもそれをみんなで共有して、お金を出し合う。そんな会社を超えたものを作って行きたいですね。
また、経営陣に外国籍の方を迎えたいと思っています。CFOにバンカーを入れたいんです。理想はスイス人(笑)すでに候補はいますが、給与も高いので、準備が必要です。
羽二生:社内公用語を英語にすることは、組織運営上必要ですか?
桂城氏:当たり前にしようとはしていますが、あまりうまくいかないと思っています。
現状は、資料は英語にしてくれと日本人メンバーにもお願いしていますが、それ以外はGoogle翻訳などを使ってコミュニケーションを取っている状況です。でもそれでいいと思っています。成果につながるなら、英語で会話ができることが必須ではないですから。
羽二生:なるほど。社内の公用語を一つにしないといけないという慣習に囚われている経営者の方もいらっしゃると思いますが、そこは柔軟に言語を選んで仕事をする方法もあるのですね。
海外に行き、何をしたいか、なぜするのかを明確にする!
羽二生:最後に、今後グローバルで戦っていきたい、強い組織を作りたい経営者の皆様に、メッセージをお願いします。
桂城氏:グローバルで通用しないマインドを持った経営者の企業が通用するとは思えません。価値観を一度見直したほうが良いかもしれません。
例えば、日本の算数の問題は、1+1=◻︎ となってることが多いですよね。答えを求めます。これが、海外だと1+◻︎=2 となっています。つまり、答えにたどり着く手段を答えさせるものです。
この考え方の違いが、グローバルかそうでないかの違いだと思います。
これに当てはめると、海外に行ってまず何がしたいのかを明確にする必要があります。
それが明確になれば、手段はいくらでもあります。
外国籍人材の採用かもしれないし、人事制度の変革かもしれない、海外パートナーとの連携かもしれない。逆にゴールを明確にしないと、手段も見つからなければ社員も一緒にコミットできません。
もし海外に行きたい、グローバルで戦いたいと思ったら、次にすべきことは、相手を知ることです。よく、英語を真っ先に習われる経営者の方々がいらっしゃいますが、まずは文化です。相手の言葉を理解してもその背景を理解できなかったら通用しません。
まずはその国へ足を運んでみる。今はコロナウイルスの状況で難しいかもしれませんが、オンラインでもコミュニケーションをとってみることが重要です。まずは、外国籍の方と飲みに行ってくださいと言いたいですね。笑
その上で一つアドバイスをするとしたら、トライしてみましょうということでしょうか。
変なプライドは捨てて、まずやってみることが、グローバルなマインドを持つための第一歩です。
羽二生:グローバルで戦うことを決めて、その手段をまずやってみることが大切な一歩になりますね。これからも、貴社から生まれる社会を変えるビジネスと新しい世界を楽しみにしています。
本日はありがとうございました。
canow株式会社代表取締役CEO桂城 漢大氏(左)CareerFly株式会社羽二生(右)
canow株式会社 代表取締役 桂城漢大氏
1995年生まれ。ペルーやスペインなど、海外での生活を経験した後、ブロックチェーンの可能性を感じ、IFA株式会社に参画。取締役COOを務め、世界各国のカンファレンスにスピーカーとして精力的に参加。2020年4月canow株式会社を設立し、代表取締役に就任。現在はブロックチェーン分野における日本を代表するインキュベーション企業として、様々なプロジェクトを推進している。