外国籍人材雇用で風土を変えていく

違うことへの憧れから、多様な価値観の受け入れへ

羽二生:御社は、加藤さんで3代目になるかと存じますが、加藤さんご自身、幼少期から、ゆくゆくは大成を継ぐというイメージがおありでしたか?

加藤氏:いえ、逆に最初は継ぎたくなかったですね。美容師とかインテリアデザイナーになると言っていました。(笑)

受験とか、進路を周りが決めていく中で、「お前は道が決まってていいよな」と言われるのがすごく嫌でした。むしろ自分で決めていける環境が羨ましかった。だから、大学卒業後は就活して、自分自身が意思決定した会社へ就職しました。

羽二生:そうなんですか!どうしてその会社に決めたのですか?

加藤氏:正直なところ、内定が一番早くもらえたからです。(笑)
当時やりたいこともこれといってなかった。
でも、すごく面白い企業でした。
大手金融系のリース企業で営業として仕事をしていました。日本の大手企業を相手に仕事ができたので、銀行や商社にできないような企画を組んで、大手相手に相当な規模の仕事ができたのは面白かったです。半導体の担当もしていたので、アメリカや台湾、韓国とのやりとりもありました。例えば、半導体を作る機械を海外で中古で買い、様々な国へ何百台とリースしたりとか。

その会社に入社したタイミングも良かったと思います。2つの銀行が統合したタイミングで、海外拠点や子会社を作ったり、M&Aし始めた時だったのです。

羽二生:そのスケールは確かに面白そうです。でも大国企業相手に仕事をするのは大変ではなかったですか?

加藤氏:大変でしたが楽しかったです。日本企業によくある、自分たちの基準値が正しいというような感覚が合わないので。(笑) 世界のいろんな基準値を知ることができ、自分のキャパが広がり、見える世界が変わることが楽しかった。これって個人でも企業でも同じだと思います。

羽二生:ご自身の価値観・基準値だけが正しいものではないと、何がきっかけで思うようになったのですか?

加藤氏:なんでしょうね。そもそも、若い時から、日本よりも海外の方がかっこいい!というのはありました。かぶれです。(笑) 海外の映画も音楽も好きでしたし、日本にないものがかっこいいという感覚は、ずっとあったかもしれません。

羽二生:なるほど。自分が持っていないものへのリスペクトがあったんですね。お話をお伺いしていると、前職もとても充実されていたようです。どのようなきっかけで、御社へご入社されたのですか?

加藤氏:実は当時、前職で海外赴任の話が出ていたんです。今は、新人が研修のためにも海外にどんどん派遣されていると聞いているのですが、僕らの時代はどちらかというと選抜されて海外赴任が主流でした。海外に行ったら、それなりの地位にもなるし、責任も増える。だからその後すぐにはやめられないなとも思っていました。
そんな時に、ずっと慕っていた祖母が亡くなりました。祖母はずっと僕のことを「三代目、三代目」と呼んで可愛がってくれていました。
前職もある程度やりきったし、祖母への恩返しもしたく、タイミングだなと思い大成に入社しました。

満を持して大成へ。賛同者0。一人で始めた技能実習生事業

羽二生:御社にご入社されたのは2012年ですね。その前後から、御社沿革を拝見すると海外事業が増えていらっしゃるように見えますが・・・これは加藤さんが仕掛け人ですか?

加藤氏:そうです!(笑)
実は、入社する前、森ビルさんとジョイントベンチャー数社で上海事業を手がけていました。これはもともと森ビルさん保有のビルでしたので、自社で取り組んだ新規ビジネスとはいえないかもしれません。

ですので、弊社で新規ビジネスというと、おそらくベトナムですね。

羽二生:ベトナムですか?

加藤氏:実は国から許認可が降りる前から、ベトナム人技能実習生について動き出していました。そもそも、ビル管理の業界は、人件費と管理費の差を利益としています。人件費が上昇している中、少子高齢化が進んでいる日本で、このままでは10年、20年先のビジネスが難しいと思いました。
そこで、目をつけたのが技能実習生でした。ハノイに駐在所を作り、信頼の置ける送り出し機関と組合を見つけ、事業提携をしました。

羽二生:ご自身で送り出し機関と組合を見つけて繋げられたんですか?

加藤氏:そうです。全部自分でやりました。当時、始めた時は役員含め賛同者ゼロでした。(笑)
社内では、外国籍は大丈夫なのか、日本語は話せるのか、誰が教えるのかとか、いろんな声が上がって、全然進まなかったです。(笑) 
ベトナム側からも、国の許認可がいつ降りるんだと急かされたり板挟みだったこともありました。でも、なんとか実施でき、初年度に13人の採用に成功しました。

羽二生:賛同者0から13人の採用・・・すごいですね。どのように進められたのですか?

加藤氏:弊社の「人を大切にする」という経営理念を本事業にも反映しました。技能実習生の方々に対して、弊社社員に対する思い同様、社員として大切に接することを徹底しました。

例えば、技能実習生採用の際は、必ず実習生の家庭訪問をします。それから、内定を出した方の親御さん全員に集まってもらい、ベトナム語で書かれた弊社概要を配り、直接ご説明しました。そうすることで、実習生も親御さんも安心してくれました。

それから、なんとか弊社社員主導で日本のマナーやルール、サービスを指導しました。教育できる社員を現地へ派遣し、1ヶ月半教育をしました。技能実習生の方が日本に来る頃には、ある程度カタコトの日本語が使えたり、仕事もある程度できるまでに教育しました。

羽二生:日本語を全く話せないところから、御社で教育されているのですね!その後いざ受け入れてみて、社員の方の反応はいかがでしたか?

加藤氏:いいじゃん!って(笑)
最初に入社した13人が評判良く、現場からもっと入れてくれという話になりました。今年で早14期生になりました。大成だけで140人を超えました。
同業他社にも、この技能実習生のスキームをコンサルティング事業として提供しており、約30社に実習生をご紹介しています。実習生200名となりますが誰一人失踪&逃亡もないです。

ビルメンテナンスを軸に、相乗効果がもてるパートナーを増やす

羽二生:ベトナムを皮切りに、海外事業を伸ばし、新規事業ではITやドローンを使ったサービスを展開したり、様々な取り組みをされています。

加藤氏:これまでは15年計画の中で「Road to Transformation 」変革への道と題した5年間を過ごしてきました。
「管理」という軸の事業はブレず、そこに付加価値をつけていけるようなサービスを、新規事業・海外事業として展開してきました。今はテレビCMなどのブランディングにも力を入れています。

羽二生:どうして新しいことへの挑戦に注力されてきたのですか?

加藤氏:管理業という業界は目立たないですし、人がたくさん集まる業態でもありません。
だからこそ、自らブランディングでイメージを変えたり、そもそも人でなくても良い仕事はIoTやAIで代用できます。それもただ出来合いのものを使うのではなく、開発から自社で行い、積極的に新規事業に取り組んでいます。

羽二生:M&Aも増えていますね?

加藤氏:おかげさまで「海外といえば大成」というイメージもできたみたいで、よく海外M&Aの話をいただくんです。フィリピンどうですか?インドどうですか?ブルネイは?みたいな。

羽二生:ブルネイまで!またいろんなところから声がかかるんですね!そこからどのように選択されているんですか?

加藤氏:なんでもかんでも手を出すわけではなくて、大成とM&A先にとってどのようにハッピーを作れるか?という「相乗効果を生み出すこと」を大切にしています。
例えば、ベトナムでのM&Aは、実習生が本国に帰った後に働ける場所ができたらいいなと思い始めました。日本語もある程度話せるようになり、技術も身につけて帰れたら、それ相当のポジションに就くことができます。そうしたら現地企業も技術のある労働者が採用できますし、我々としても大成で働いてよかったねと言ってもらえたらと。

羽二生:そこまで考えられているんですね。今後もより良いパートナーシップが広がっていくことが楽しみです。

外国籍社員が日本人社員に与えるものは大きい

羽二生:海外事業について、お一人で始められたということでしたが、総合職の外国籍採用はもともとされていたのですか?

加藤氏:いえ、これも僕が始めました。
技能実習生と同じように、リスクの話が出てきて、なかなか前に進まなかったですね。
日本的企業は、何か新しいことをしよう!となった時、リスクをまず考え、批判的なことから始まるんです。それをどのようにすれば回避できるのか、どうしたら先に進めるんだという前向きな議論になりません。リスクの話ばかりが先行します。

リスク分析・把握は大事です。ただ、今話ししててわからないことは、実際動いてみながら対応していけばいいと思います。海外の人って行動が早いじゃないですか。とりあえずやってみようよって。その考えを大切に、ひたすら動いてみることで、まず一人採用することに成功しました。

羽二生:確かに慎重ですよね。そんな中採用できた方はいかがでしたか?

加藤氏:これもですね、いざ入れてしまえば、評判がよくて。思っていたより受け入れストレスがないと思うと、現場は急にウェルカムな感じになります。今となっては総合職外国籍8名を採用し活躍いただいてます。

羽二生:歓迎ムードになって良かったです!実際外国籍を採用してみて、どんな点がプラスでしたか?

加藤氏:あんまり比較するのは良くないとは思いますが、比較的若い日本人と比べると外国籍の方のほうが夢とか、これは負けないみたいなスキルを持ってるんですよね。
そういう人たちと仕事をすることで、日本人社員に対して刺激を与えられているというのはいいことかと思います。

羽二生:日本で働く外国籍の方々は、外国で一人頑張れるだけのモチベーションをお持ちですもんね。逆に大変だったことはありますか?

加藤氏:特にないですね。入社される方が日本語が上手なこともありますが、特に日本人メンバーと比較して手がかかったことはあまりないです。強いて言えば電話対応かな。でも回数重ねれば慣れますし。あまりないです。

羽二生:それは素晴らしいですね!

初動は早く、引き際は潔く。他者の価値観を取り入れたからこその事業運営

羽二生:ご入社からこれまでの、特にこの5年間を振り返ってみて、どう感じられますか?

加藤氏:やりたいことの2〜3割できたかな?という感じです。

羽二生:結構盛りだくさん事業推進されていますが!(笑) そのスピード感は、前職で培われたんですか?

加藤氏:それはありますね。ITを筆頭に、世の中のスピード感は、とても早い!当業界はどちらかというとスピードを求めていないからか、ゆっくりしています。だから早いねとか、この短期間でよくやったねと言われることもあります。ただ、僕はこれでも早いとは思わないし、せめて今のスピード感を持続していきたいと思います。

羽二生:まさに自分の枠だけでなく他からも刺激を得られている加藤さんだからできた考え方でしたね。そのスピード感の中で、大切にされていることはなんですか?

加藤氏:取り掛かる早さだけでなく、身を引く早さが大切だと思ってます。見切りをつけるというか。
日本的企業は、一度始めたら結果が出るまでずっとやり続けなくてはいけないという発想があるかと思います。この考えって、一方で悪いものが溜まっていくと思うのです。だから、3年、5年などある程度の期間を設けてやってみる、そしてダメだったら辞めるという判断をすることが重要です。

羽二生:確かに、やり始めたからには成功するまで諦めないことを美徳とする感覚ありますよね。

加藤氏:そうなんです。採用も同じじゃないですか。日本は就職したら最後までこの会社でずっと勤めるみたいな感覚がまだあったりして。最近IT周りとか特にそうですけど、プロジェクトごとに人を集めて、終わったら人が巣立っていくというのがスタンダートになりつつある。これからの日本企業では、当然長く働く人も必要でしょう。ただ、いい意味で人も時代に合わせながら入れ替えて、企業も人も成長できるような環境を作った方が、合理的な気がします。

羽二生:管理業界の中でも、一番の老舗であり、規模も大きな御社にて、賛同の少ない中プロジェクトを推進され、成功されたコツはなんでしょう?

加藤氏:風土改革と意識改革を大切にしています。
風土はなんとなく変えていくもので、意識はピンポイントで一人一人について行うものかなと。
何かについてリスクだ、嫌だと思っている中で、いきなり意識改革したところで人って変わらないんですよね。
だから、風土、雰囲気を変えてしまう。なんとなくこんなもんなんだってものを雰囲気からわかってもらった上で、意識を変えていくと、人って受け入れやすくなると思うんです。

例えば、外国籍採用の時は、外国籍ってこんな感じなんですよ、こんなスキル持ってるんですよ、そんなに難しくないですよとか、まずは風土を変えることに時間と労力を使いました。そうしたらちょっとずつ周りが、あ、そういうものか〜となんとなく理解していく。そこから意識を変えるんですよね。

「日本」のアドバンテージを活かし、東南アジアでの事業を伸ばしていく

羽二生:15年計画のうち5年が終わりました。今後はどの様な計画をお持ちですか?

加藤氏:管理という軸に対して、新たに作ってきた「新規事業」と「海外事業」という軸を確立させていきます。

羽二生:より事業を強固にしていかれるんですね。海外は、東南アジアをお考えですか。

加藤氏:そうです。我々の事業って、先進国になる国に必要なんです。弊社も、戦後アメリカからサービスを学んでおり、実は最初のお客様はGHQでした。日本が戦後、高度成長とともにビルが増えて、物だけでなくサービスが求められる様になる中で成長してきた事業なんです。

東南アジアは、今まさに先進国になろうとしている国がたくさんあります。開発が増え、インフラが整って、所得が増えていく。「サービス」に価値を見出せる様になれば、我々の事業のニーズはありますからね。

羽二生:今すでにいくつかの国に進出されていますが、現地の反応はどうですか?

加藤氏:親日である国が多いので、やりやすいです。他の国よりも、日本のアドバンテージがありますから、これを生かして、この5〜10年で東南アジア事業をそれなりに形にしていきたいと思います。

外国籍人材採用、いいですよ!まずは一人入れてみては?

羽二生:では最後に、外国籍人材の採用やってみたいけどまだできていないという企業様にぜひメッセージをお願いします。

加藤氏:外国籍の人、いいですよ!ってことですかね?(笑)
今までと違う価値観が広がりますし、社員にとっても発見があると思うのです。
もちろん日本人には日本人の良さがありますし、それは否定しません。でもそれだけではなく、違った方を入れることで、見える世界が変わります。
まず一人を入れるという勇気ある一歩を踏み出していただきたいと思います。

外国籍であることについて、そんなにネガティブな反応を持つ企業って、少ないと思うんです。
結局日本語が話せるかどうかなのでしょうが、そこってもったいないなと。
僕も英語ペラペラなわけではないけど、スキルや専門知識でどうにかなってるところがあると思っています。逆も然りで、日本語がペラペラじゃなくてもスキルがある方をどう生かすか、採用できるかが重要だと思います。

羽二生:そうですね。スキルは高いのに、日本語が流暢ではないというだけで機会を得られていない方もいらっしゃいます。

加藤氏:ここを変えるのは、大変だと思います。でも、これこそ風土を変える方法で攻めることかと思っていますし、責任者が変えていく必要があると思います。
例えば、現社員がちょっとずつ片言英語に慣れてみたりとか、英語の楽しさを社員に伝えて、意外とコミュニケーションできるね!英語使うとなんかかっこいいね!みたいな。そんな風土ができると、いざ外国籍人材を雇用する時に使えたり、英語を教えてもらえたりして。楽しいじゃないですか!

あんまり考えすぎず、悩むぐらいならまず入れてみて、考えてみたらどうかなと思います。

羽二生:リスクを考えすぎずにまず走ってみることが大切ですね。
本日は貴重なお話をありがとうございました!今後のますますのご活躍をお祈りしています!

CareerFly羽二生知美と大成株式会社代表取締役専務加藤氏
大成株式会社 代表取締役専務 加藤 憲博氏にインタビュー
大学卒業後、三菱UFJリース株式会社に就職。営業として、大企業をメインクライアントとして担当。海外案件などの大規模案件を経験し、大成株式会社に入社。世界で戦うスピード感、多様な価値観や視点を活かし、数々の新規事業・海外事業を企画推進。2019年6月代表取締役専務に就任。