バス釣りの趣味がきっかけとなり興味を持ったアメリカという国
CareerFly大野(以下大野): 貴社の人材採用のサポートを始めて早一年となり、念願のCEOインタビューが実現できました。本日は貴重な機会をいただき有難うございます。
株式会社マルチブック 代表取締役 村山忠昭氏(以下村山氏) :どうぞよろしくお願いいたします。
大野:事前に村山さんの記事を拝見し、ご趣味を大変深め楽しんでいる方という印象を受けました。ライフワークである釣りは、いつから始められたのでしょうか。
村山氏:幼少期より行っていました。今でも楽しんでいるブラックバス釣りは中学生のころにスタートしました。
大野:大学選びも趣味の影響がおありだったと?
村山氏:釣りができるエリアであり、釣り部があることから横浜国大を選びました。
当時、両親への説得は取り繕いましたが(笑)。記念受験としてICUも受けましたが、全然受かりませんでした(笑)!リスニング2時間のテスト内容は、地方公立高校出身の私にとっては厳しいものでした。
大野:進路を”趣味ができること”、というシンプルな基準で決める村山さんのお人柄と視点が本当にユニークです。他にも「企業小説」を好んで読んでいらっしゃいました。
村山氏:私自身を一言で表すと「趣味の人」。
企業小説にハマった時期は中高時代でした。読破した後、「西武とヨーカ堂」のどちらがすごいかを同級生と議論しました。すごいのはヨーカ堂だ!みたいなことを読書で仕入れた情報をもとに論議することを楽しんでいました。
大野:大人のような10代ですね(笑)。
村山氏:地元に西武もヨーカ堂も一店舗もなかったですが、とにかく本に書いてあることを参考にしました。
大野:中学生のころ、釣りの影響でアメリカに興味を持つようになりました。一見、何の接点もなさそうですが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
村山氏:釣具のカタログがどうしても欲しくて、アメリカのメーカーに手紙を送ったことがきっかけです。ブラックバス釣り自体、アメリカから来ています。当時から、釣具はアメリカからの輸入品が多く、ほとんどの製品がアメリカ製でした。釣り雑誌にも、「本場アメリカのブラックバス釣り」のような文字と情報が並んでいました。
”本場アメリカの情報がもっと知りたい”という欲求が高まり、釣具をアメリカから輸入する方法などが書かれた雑誌を参考に、英語で手紙を書きました。当時中学生でしたので、その時学んでいた中学生レベルの英語を並べて仕上げました。
その後、アメリカから念願のカタログが届いたときは、「アメリカという国の寛大さ」を実感しました。
この経験から、益々アメリカへの興味関心が高まり英語習得に歩を進めました。
大野:これはかなり嬉しい体験ですね。よりアメリカに対する興味が高まったこと、想像に難しくないです。
社会人一社目の会社で現事業へとつながるSAPシステムと出会う
大野:大学卒業後、ユニリーバに入社されました。きっかけはあったのでしょうか。
村山氏:あまり大きな声で言えないのですが、釣りで遊び呆けていたので、補欠入社でユニリーバに受かったことが幸いでした(笑)。就活もしておらずでして。成績も悪く、卒業も危うかったのですが、とにかく就活解禁日の8月に合わせて始動しよう、そう考えていました。
周りはほとんど内定をもらっている状況下、これから面接が受けられる企業の中にユニリーバ社を見つけました。釣り部の先輩が入社していたこともあり、後輩です、のように面接を受けました。
他の方が内定辞退をした枠に私が滑り込めた、というのが真実のようです。ラッキーでしたね。
大野:入社後の配属先は経理でしたね。
村山氏:希望部署はマーケティング、と伝えてはいました。おそらく、内定辞退した方の配属先が経理と決まっていたのだと思います。
学生のときに会計のことも学んでいたので、親和性はありました。
大野:SAPに出会うのもこの時期でした。
村山氏:93年、入社3年目の年です。当時会計ソフト自体あまり馴染みがなかったのですが、日本へのSAP導入が決まり、プロジェクトにアサインされました。既に導入していたロンドン本社へ視察にも行きました。
当時2つの学びがありました。
そもそも、より良い会計ソフトの存在を知れたこと。
SAPシステム自体、当時希少であるグローバル対応の”パッケージ”ソフトでした。技術的にも汎用性があり、一社一社の要望に合わせ開発するカスタマイズシステムと比べても、とても良い製品でした。
2つ目の学びは、同システム導入を支援するコンサル会社が存在することを知ったことです。
このような会社があること自体面白いなと。
当時お世話になったのは、PwC(現IBM)から来ていた導入コンサルの方々でした。様々な業種のクライアントに対して支援をするわけなので、学びもありとにかく面白そうだと感じていました。
大野:貴社の現事業のきっかけとなる出来事ですね。その後、IBM社へご転職されます。
村山氏:システムコンサルタントと経理とどちらのキャリアへ行くか、少し悩んだ時期がありましたが、結局コンサルタントとしての道を突き進むことにしました。
社会経験10年目に幼少期から興味を持ち計画していた起業をする
大野:その後、社会人10年目突入のタイミングで起業をされました。予定通りだったのでしょうか。
村山氏:随分時間がかかってしまった、というのが正直なところです。
10代のころから企業経営に関してはとても興味を持っていたので、漠然と起業しようと考えていました。社会経験10年目にしてやりたいことが見え、立ち上げたという思いです。
大野:起業の決め手となった出来事があったのでしょうか。
村山氏:最後に勤めたフィリップモリス時代に、母ががんで亡くなりました。
事業を営んでいた母からの教えは、「安定した職につくこと」。年金も退職金も貰うことができる公務員になれ、ということを言われていました。自営業で様々な経験をしている母だからこそ、そのような思いになることを理解しており、反抗することもなくサラリーマンの道を選びました。
サラリーマンとしての月日が流れる中、母が亡くなり昔から興味のあった企業経営を行うことになりました。
大野:マルチブックの誕生ですね。最初の事業スタートは順調でしたか?
村山氏:法人口座を作れば契約をしてくれるとおっしゃってくれたクライアントがいました。
まずは、自身が導入コンサルとしてサービス提供をしました。5年間ほど私も含めた3人で事業をしており、6年目に入るタイミングで将来の事業展開を改めて考えました。
事業企画合宿を行い、10年先のプランを練る中で海外展開に着手しようと決めました。
早速、アメリカで行われる展示会へ出展をすることになりました。その際、改めてアメリカの市場規模の大きさを実感でき、「海外→日本」ではなく「日本→海外」に出る方が成長性があると思いました。これを機に、海外拠点を出し各国で勝負していくことにしました。
大野:現在、海外拠点が7つありますね。
村山氏:香港、フィリピン、タイ、オランダ、ドイツ、イギリス、シンガポールに拠点があります。
ある日本メーカーさんが香港でプロジェクトを行うとき声がけをしていただきました。”海外展開”を様々なところで発信していたことから、このようにお話が舞い込んできました。
海外拠点を作るきっかけの多くは、日本側で雇用した社員が国へ戻ることがきっかけとなりました。
現フィリピン支社長のシーラも、日本で経験を積んでいたのですが、彼女が国へ帰ることを機に現法を立ち上げました。
大野:フィリピンオフィスは、SAP技術者を抱える重要な開発拠点でもありますね。
村山氏:そうです。タイ拠点も、現在日本本社所属のカリム(FMソリューション部部長)がタイで仕事を探していると知人から紹介があったことがきっかけでした。カリムはフランス国籍で、奥様がタイ現地で就業していたため自身の仕事の機会をタイで模索していました。そうであれば、タイのプロジェクトも進んでいたこともあり拠点を立ち上げようと動きました。
タイ拠点は彼が中心となり、事業立ち上げから安定運営までを全て対応してくれ、現在も順調です。
大野:社員の方の動きに合わせ海外拠点が立ち上げる、のですね。自国に戻っても、日本と同じ業務ができ、地元で責任ある立場でキャリアパスが提供されることは社員の方にとってとてもポジティブですね。
ちなみに、海外拠点立ち上げは色々ご苦労もあると思います。
村山氏:海外拠点を立ち上げるたびに危機が起きました。
リーマンショック、天災、疫病などなど。(苦笑)ソフトウェアの投資は、景気が良いから行う、という流れがあります。景気が悪くなると一気に控える。システム屋として活動する我々にとって、景気に左右されることは多々あり海外拠点を立ち上げた後に必ず外的危機が起こりました。常に資金繰りとの戦いです。(笑)
マルチブック多国籍チームの共通点「海外が好き」であること!
大野:海外拠点を中心に、海外での案件をフットワーク軽く対応できる貴社サービスはクライアントに大変喜ばれていると思います。働く社員の方々にとってもプラスのことが多いのではないですか?
村山氏:「海外で仕事をしたい」このようなモチベーションを持つ社員が揃っています。
日本国籍社員の中に、海外大学出身のものも多く、弊社の場合海外でのプロジェクトにアサインされることもあるのでとてもやりがいを感じていると思います。
また、海外出張期間に休暇を取り、隣国へ足を伸ばし楽しむことも承諾しています。海外に興味のある方にはおすすめの職場です。このようなことから、海外好きの方に入社してもらうようにしていますし、そこは入社時に確認しています。
大野:そもそも海外苦手です、という方は向かないかもしれません(笑)。
村山氏:インドプロジェクトに出向いた社員が、現地滞在中休暇を取りネパールへ遊びに行ったなどの報告もあります。このような報告があると、本当に好きなんだと実感しますね。
大野:近くにいるし、せっかくだから行こう!と考えるのですね。フットワークが軽くアクティブな方々が多くいらっしゃるのですね。
現在在籍の外国籍メンバーのご出身国は?
村山氏:韓国、中国、マレーシア、タイ、フィリピン、フランス、インド国籍の社員が在職中です。
現在はアジアを中心としたメンバー構成となっています。過去には、欧州国籍のメンバーが中心の時期もありました。
大野:インターナショナルチームですね。
村山さんご自身は、国籍など意識せず採用されているのですか?
村山氏:外資にいたこともあり、国籍を意識したことはないです。
上述した通り海外が好きであったり、弊社が大切にしていることを理解し仕事に取り組んでくれる方を採用しています。
大切にしていることは、主に2つです。
「言語力(日英)× IT知識 × 専門業務分野」この3つの掛け算が弊社の特徴であり強みです。これらを持ち合わせていること。そして、「チームワーク」がとれること、これも重要なポイントです。
大きなプロジェクトが多いことから、プロジェクトメンバーと一緒に仕事ができる協調性は必須です。いくら個人としての能力が高くても、チームで仕事ができない方がいるとプロジェクトが崩れてしまいます。採用する際には、プロジェクトの一員として周りと協力・協調しながら仕事ができるかをしっかり見極めるようにしています。
大野:チームワークが取れる方はどのような要素を持ち合わせているのでしょうか?
村山氏:「やさしさがある」「人とコミュニケーションが取れる」「人当たりが良い」人柄や性格を持つ社員が多いですね。
とても優秀でも、横柄で当たりがキツい方はチームメンバーとして一緒に成果を出すことが難しくなります。
大野:村山さんのお人柄そのものが現れていますね。穏やかで深い受容力をお持ちです。似た方々がお仲間として集まるのですね。貴社の考え方として、「働く社員と社員の家族の幸せを追求する」ことを掲げています。なぜその点を大切にしているのでしょうか。
村山氏:ワークライフバランスを取りながら、成果を出していくことを目指したいと考えます。
基本、成果を出せば働き方は問わない。これらを実現するからこそ、社員個人の幸せと家族の幸せがあるのだと考えます。
弊業界は、深夜に帰ることが当たり前、の習慣があります(断言できないが過去そのような会社も存在していた)。夜中まで働くことが良いわけではないです。
もちろん、プロジェクト繁忙期は集中的に働かなくてはいけないときも正直あります。ただ、猛烈な働き方でなく心身ともにバランス良く働くことで成果を出していくことに拘っています。
そのためにも、人事評価は一人一人に合った”テーラーメイドスタイル”で対応しています。
一人ひとり個性があること、社員の人数も限られているのでよりカスタマイズした評価制度で運用しています。
現在、社員数が増えていることからテーラーメイドの限界も少しでてきましたが、これからもできるだけ一人ひとりと向き合い評価をしていきたいです。
プロジェクト毎に活動をする弊社社員のコンサルとしての能力、性格、スキルを理解把握し、組み合わせることで良いプロジェクトチームが形成されます。効率良いプロジェクトチームを形成すれば、生産性が上がり良い成果を生み出すことができます。
海外展開を強化する日本企業をサポートしたい!
大野:これからの貴社展望をお聞かせください。
村山氏:昔も今も「海外展開をする日本企業のサポート」がミッションです。日本企業は海外に出るべきだと考えます。大手企業向けにはSAPコンサルティング、中小企業には自社パッケージサービスを提供する、これも以前から変わらず考えていることです。
そのために、海外支社を増やしていきたいです。昨年インド支社を開設予定でしたが、コロナの影響で一旦ペンディングとしています。落ち着いたころに再び立ち上げに向けて動き出す予定です。
インドを皮切りに、西のエリアを攻めていきたい。アフリカや中東なども将来的にカバーするかもしれません。
アメリカ、EU、中国、インドはマーケットとして無視できません。中華エリアに関しては、台湾を狙っています。
また、産業毎の切り口も増やしていきたいです。現在、車両メーカーに対するソリューション提供に集中しています。一本足打法からの脱却を考えたときに、アパレル業界に弊サービスを広げて行きたいと考えています。
日本のアパレル企業はユニクロ社のように、良い製品を作ることができるはずです。それにも関わらず、国内のアパレル企業は低迷しており海外展開に成功している企業が少ないです。もともと繊維文化もあり盛んだったことから、もっと海外で成功するアパレルメーカーが出てきても良いのではと考えています。
大野:なるほど。それを考えるとアパレル業界で経験を積んだ導入コンサルの方が入社されると貴社に対してバリューが高いかもしれません。
製造業以外の業界で経験を積んだ方が入社されることはコンサルの経験業種を増やすことにつながりますね。
村山氏:SAPシステムを導入した事業会社にて経験を積んだ方も、今後テクニカルなスキル習得に意欲があるならば候補者となり得ます。現職社員に、物流業界からキャリアチェンジした社員も存在します。バイリンガル言語力も必要ではありますが、現在堪能でなくとも習得意欲とある程度の基礎があれば受入検討可能です。
ただ、人柄については変えられないことが多いので、弊社カルチャーにフィットするキャラクターであることは入社時に必ず確認します。
大野:より活躍してもらうための制度や取り組みはありますか?
村山氏:できるだけ社員同士の交流機会を提供するようにしています。飲み会や社員旅行などのイベントをコロナ前は行っていました。普段、個々にプロジェクトへ出向いているため機会を作らないと一年くらい会わない社員もでてきます。
交流イベントは、参加率を高めるために良いレストランを予約して、皆で食事会をするなど工夫していました。
大野:社員の方々のモチベーションや満足度を高めるため、様々な工夫をされているのですね。もっとお話を伺いたいのですが、お時間が迫ってきたため最後の質問とさせてください。
外国籍社員の方を採用しようと検討している企業さまへメッセージをいただけますか?
村山氏:良い人はよいです。能力がピカイチの方もいらっしゃいます。
もちろん初めてのことは怖さもあると思いますが、カルチャーフィットの点と求める能力を持っている場合は採用を検討しても良いと思います。
採用するときの判断材料がより必要な場合、適性検査を行う、リファランスをとる、できるだけ多くの面接官を立てる、など面接プロセスを工夫することができます。その上で面接の対話を通じて感じたことも判断材料として大切にする。など、見極めるためにできるだけの対応をすることですね。
大野:採用する側が採用プロセスの中で、できるだけ多くの判断材料を集めることは、双方にとっても安心ですね。
本日は素晴らしいお話をいただき有難うございました。村山さんのお人柄に触れ、同社カルチャーが大変魅力あるとこれまで以上に実感することができました。社員、社員の家族の幸せを願う素晴らしい会社です。国籍関係なく誰もが活躍できるカルチャーがあると対話を通じて感じ取ることができました。
益々のご発展を心より祈念しております。
(左)Career Fly株式会社代表取締役大野理恵と(右)株式会社マルチブック代表取締役村山忠昭氏
株式会社マルチブック 代表取締役 村山忠昭氏
1968年山口県宇部市生まれ。横浜国立大学経済学部を卒業後、1991年ユニリーバ・ジャパン入社。日本初のSAP導入プロジェクトに参画した後、外資系コンサルティング企業、外資系消費財メーカーを経て、2000年10月にグローバル企業向けのシステムコンサルティングを専門とするマルチブック(旧社名:ティーディー・アンド・カンパニー)を立ち上げる。
2015年より自社開発によるクラウド型基幹業務システム「multibook」のサービスを開始。フィリピンのオフショアセンターを中心に、香港、タイ、シンガポール、オランダ、ドイツ、アメリカの海外7拠点に展開している。