インタビュー|インド高度人材採用のトレンド:日本企業が直面する「選ばれない」危機

インド高度人材採用のトレンド日本企業が直面する「選ばれない」危機【2026年2月】

インタビュー時期:2026年2月上旬

【インタビュアー】

本日はよろしくお願いします。大野さん、インドから帰国されたばかりですが、お疲れではないですか?

インドビジネストリップの様子

【代表 大野(以下、大野)】

よろしくお願いします。お察しの通り、少しバタバタしていました。先々週までインドに行っていましたので、その疲れはすぐには抜けないですね。ただ、現地の熱量を肌で感じてきましたので、今日はお伝えしたいアップデートがたくさんあります。

【インタビュアー】

インド帰りということで、非常に楽しみです。今のインド人材採用の現状をインタビュー形式で詳しく伺いたいと思います。

結論:日本企業はインド人に「選ばれなくなっている」

【大野】

インドに行って色々と考えさせられましたが、結論は非常にシンプルです。「日本企業は、今本気で頑張ってインド人を採用しにいかないと、もう取れなくなる」。これが今回一番強く感じたことであり、日本企業に伝えたいことです。

【インタビュアー】

「もう取れなくなる」。これまで以上に強い危機感を感じますね。

【大野】

はい。これまでは「国内の人手不足を補うために外国人を雇う」という文脈で語られることが多かったですが、キャリアフライのコンセプトはそこではありません。インドの人材を雇用することでインド市場への進出を加速させたり、グローバルチームとしての組織開発を強化して、外へエクスパンション(拡大)していく。そのための戦略的な機会だと捉えています。

しかし、今回の訪問で確信したのは、日本企業が「自分たちだけでやっていこう」と高を括っていられる時間はもう残されていないということです。

当時の自分を恨むことになるほど、グローバルでは想像を超えるスピードで大きな変化が起こっています。

今の日本の立ち位置を真剣に、客観的に理解しなければなりません。

衝撃の「インド・EU自由貿易協定(FTA)」

【大野】

まず、日本企業が経営戦略として絶対に押さえるべきニュースがあります。インド政府がEU(欧州連合)と自由貿易協定を結びました。

【インタビュアー】

FTAですね。がっちり組むという話は以前からありましたが、現地のインパクトはどうですか。

【大野】

インパクト大です!日本はインドと、これほど強力な自由貿易協定を結んでいません。現状、日本からインドに製品を送る場合、低く見積もっても5%から15%の関税がかかります。IT製品や製造系はその程度で済みますが、食品など特定の商材になれば100%以上の関税がかかることも珍しくありません。つまり、日本国内で作ったものをインドに送って売ろうとすると、原価に対してコストが2倍かかるような構造なんです。

【インタビュアー】

2倍ですか。それは商売として利益を出すのが極めて困難ですね。

【大野】

そうなんです。だからこそインド政府は長年「メイク・イン・インディア」を掲げ、外資企業に対してインド国内での製造を強く求めてきました。ところが、今回のEUとの協定によって、インドとヨーロッパの間で「関税ゼロ」になる製品が激増したんです。

アパレルやテキスタイル、各種製造業も含まれます。関税がゼロで欧州という巨大市場にアクセスできるなら、インドの企業や投資家はみんな一斉にヨーロッパを向きます。どう考えてもビジネスの合理性はそちらにあります。

【インタビュアー】

ビジネスチャンスの潮流が、一気にヨーロッパへ流れてしまいますね。

【大野】

ええ。日本製品への信頼やブランド力は依然としてありますが、通貨の面で見ればユーロや米ドルの方が圧倒的に強い。「JPY(日本円)はかなりウィーク(弱い)だ」というのが、今のインドにおけるスタンダードな認識です。そこに言語の壁や、日本独特の文化バリアが重なります。

日本人は「インド人は親日だから、日本のことをよく知っているだろう」と思い込みがちですが、実際はそんなことはありません。知らない人の方が圧倒的に多いんです。市場としての魅力が薄く、かつヨーロッパ向けに巨大なビジネスオポチュニティが解放された今、彼らがどちらを選ぶかは明白です。今回の協定には、インドがアメリカに左右されたくないという対米・対中対策という背景もあります。インドはもう、完全に欧州を向いています。

 

インド・EU間の自由貿易協定(FTA)概要

インド政府はEUとの間で、貿易および投資の促進を目的とした歴史的な自由貿易協定(FTA)を締結しました。この協定は、海外直接投資(FDI)の促進やサービス貿易の自由化を含み、特に関税の大幅な撤廃・削減を柱としています。これにより製造業、ITサービス、テキスタイル、アパレル分野におけるインドから欧州への輸出競争力が劇的に高まることとなりました。日本企業にとっても、インドを単なる市場としてだけでなく、欧州への中継拠点として活用する「地政学的なリ・ポジショニング」が急務となっています。

参照:JETRO「EUとインド、FTA交渉で妥結、世界GDP比2割超の自由貿易圏誕生へ」https://www.jetro.go.jp/biznews/2026/02/59cb7999d5b98ae2.html

「日本人より安く雇える」という致命的な勘違い

【インタビュアー】

人材採用の現場でも、その影響は具体的に出ていますか。

【大野】

もちろんです。いまだに「国内で人が採れないから外国人に挑戦してみよう。でもインド人はよくわからないし、年収は日本人より低めで設定していいですよね?」と相談してくる企業が後を絶ちません。10社あれば、半数以上はまだ心のどこかでそう思っているかもしれません。

【インタビュアー】

高度人材を相手に、まだそんな認識の企業があるのですか。

【大野】

残念ながらいます。しかし、優秀なインドの高度人材は、日本だけでなく世界中からオファーをもらっています。アメリカ、ドイツ、イギリス、中国。これら他国の企業と5社並んだとき、日本企業の年収提示額は、間違いなく一番下になります。

【インタビュアー】

それでは交渉のテーブルにすら着けませんね。

【大野】

インドの平均年収データは層によってバラバラで、中央値を出すのが難しいのが実態ですが、我々が扱うような高度人材層は、すでに日本人よりも高い給料をもらっています。特にアメリカやドイツ、イギリスの外資系企業に雇われている層の年収は非常に高額です。

日本企業が本気で優秀な人材を獲得したいなら、「社内規定がこうだから」という内向きの理屈を押し付けるのではなく、例外的な年収を提示するようなフレックスな考え方を持たなければ、採用競争に勝つことは不可能です。

致命的な「ジョブ型雇用」への理解不足

【インタビュアー】

年収以外の条件面で、インド人が日本企業を敬遠する大きな理由はありますか。

【大野】

「ジョブ型雇用」の発想が組織に浸透していないことです。日本特有の「とりあえず総合職として入って、何でもやってね」という募集。これ、インド人から見ると恐怖でしかありません。オファーレターを見ても、具体的な業務範囲が何も書かれていないケースが多すぎます。

【インタビュアー】

日本の雇用契約は、最後に「及びそれに関わる一切の業務」という文言で括られがちですね。

【大野】

それでは彼らはすぐに辞めます。例えば営業職として採用するなら、それが「新規開拓」なのか「既存顧客のフォロー」なのか。さらに踏み込んで「1日に何件の電話を行う想定か」まで、オファーの段階で明文化するのがグローバルスタンダードです。

キャリアフライでは、採用する方にはそれくらい細かく業務内容を定義しています。自分たちで書けないという企業には、うちのサンプルを渡して参考にしてもらっています。包括的に「営業です」と言われても、彼らは「自分の日本語スキルでどこまで求められるのか」「何をもって評価されるのか」と不安になります。この曖昧さが、早期離脱や定着率の低下に直結しているんです。

日本企業が直面する「定着」の壁と、コミュニティの重要性

インド人採用の壁

【インタビュアー】

条件面や職務の明確化だけでなく、精神的な「住みやすさ」や「安心感」も、定着には大きく関わってきそうですね。

【大野】

おっしゃる通りです。インドの人たちにとって、同胞とのコミュニティやネットワークは、我々日本人が想像する以上に重要な要素なんです。それを象徴するのが、東京の「西葛西」ですね。

【インタビュアー】

西葛西は「リトル・インディア」とも呼ばれるほどインド人が多いことで有名ですが、そもそもなぜあの場所に集まったのでしょうか。何か歴史的な背景があるのでしょうか。

【大野】

実は、日本とインドのIT協力には25年以上の歴史があるんです。きっかけは「2000年問題(Y2K)」でした。当時、システムの修正が急務だった日本政府が、IT人材の宝庫であるインドから多くの技術者を呼び寄せたんです。

その際、彼らの受け入れ先として、自治体のサポートが手厚かった西葛西周辺が選ばれました。一説には、近くに荒川という大きな川があることが、彼らの聖なる川、ガンジス川に見立てて安心感につながった……なんて安直な話もありますが(笑)。

【インタビュアー】

なるほど、歴史的な必然と、少しの心理的な要因があったのですね。

【大野】

ええ。事実として、今も都内に住むインド人の約4割がそのエリアに集中しています。彼らはそこで情報交換をし、助け合って生活しています。

ここから日本企業が学ぶべきなのは、高度人材を単なる「労働力」として連れてくるのではなく、彼らが孤立しないようなコミュニティへの接続や環境整備までをセットで考えなければ、長期的な定着は望めないということです。

文化の相違を「理解する」ことの真意

【インタビュアー】

文化の違いについても、現場でネックになる部分はありますか。

【大野】

最も顕著なのは「時間の感覚」ですね。オンタイムという概念が、日本とは根本的に異なります。例えば、インド人の友人がパーティーを開く際、日本人には「1時開始」と伝え、インド人には「12時開始」と周知することがあります。日本人は5分前行動で来ますが、インド人は12時と言えば1時や1時半に来るのが普通だからです。

【インタビュアー】

仕事の現場でも、そうした感覚のズレは起こり得ますか。

【大野】

ビジネスシーンではもちろんプロとして振る舞いますが、根底にある習慣のズレは必ず影響します。例えばランチタイム。日本人が12時なら、インド人は14時が一般的です。夕食も仕事が終わって早くても夜8時から。この「2時間のズレ」を知っているかどうかで、コミュニケーションの円滑さが変わります。

こうした相違を、単なる「間違い」として切り捨てるのではなく、互いに理解し合う姿勢が必要です。今までは日本にやってくる外国人側が、必死に日本の文化に寄せてくれていました。しかし、今の円安やグローバルなパワーバランスの変化を考えれば、日本側も歩み寄らなければ、優秀な人材との共生は成り立ちません。

危機感を持ち、選ばれる環境を整える

【インタビュアー】

最後に、日本企業の経営層や人事担当者に伝えたいメッセージをお願いします。

【大野】

今、グローバルで何が起こっているのか、もっと広い視野で危機感を持ってほしいです。国内の有効求人倍率だけを見て「人が足りないから外国人を」と考える次元はもう終わりました。

インドがヨーロッパを向き、世界基準の労働市場が形成されている今、日本企業は真剣に、かつ柔軟に環境を整えなければなりません。年収基準の引き上げ、ジョブ型への完全移行、そして真の異文化理解。これらを怠れば、日本のプレゼンスはさらに低下し、本当に優秀な人材を確保することは不可能になります。今回のインド訪問で感じたこの「焦り」を、多くの日本企業と共有したいと思っています。

それでも、日本企業のインド人の採用は右肩上がりトレンド?!

【大野】

と、ここまでは、かなり厳しい状況の共有をしましたが、それでも、インド人材を取り込むことは十分に可能です。ご安心ください。

【インタビュアー】

良かったです。中々難しいのかなぁと聞いていて思ったので。

【大野】

すみません、でも、ここまで話をしてきたことは、とても大事なポイントなので、しっかり覚えておいてくださいね。

鞭のあとの飴になりますが、実は、

「インド国内におけるJLPT(日本語能力試験)の受験者数」は、年々着実に増加しています。

2018年には、年2回実施される現地試験の受験者数は約1.2万人でしたが、

なんと、2025年は「約7万人」まで拡大しました。

日本語への関心は明らかに高まっており、言語学習をきっかけに日本への興味を持つ人も増えています。そうした層に対して、日本での就業をキャリアの選択肢として提示することは、十分に現実的で将来性のあるアプローチです。

【インタビュアー】

最後にとても良いお話を伺えました。非常に重みのある、そして現場感に溢れたお話が有った一方で、インド人の日本語学習は増加トレンドだったのですね。

本日はここまでです。貴重なお話、ありがとうございます!

まとめ:日本企業が今すぐ注意すべき4つのポイント

本記事のまとめ

1. 「日本は選ばれる側」という幻想を捨てる

インド・EU間のFTA締結により、インドの人材や企業の視線は急速に欧州へとシフトしています。「親日だから」「日本の技術はすごいから」という理由だけで人が集まる時代は終わりました。JPY(日本円)の弱さを自覚し、グローバル市場において自社が選ばれるための明確な動機を提示する必要があります。

2. 年収基準を「グローバル・マーケット」に合わせる

高度人材の獲得競争相手は、国内企業ではなく欧米の外資系企業です。日本人社員とのバランスを気にしすぎるあまり、相場より低い提示をしていては話になりません。優秀な成果には相応の報酬で応える、フレックスな給与体系へのアップデートが不可欠です。

3. ジョブ型雇用を徹底し、職務を「詳細に明文化」する

「総合職」という曖昧な枠組みは、キャリアの専門性を重視するインド人材には不評です。採用時のオファーレターで、役割、責任範囲、具体的な業務内容(KPIや日々のタスク例など)を徹底的に言語化し、入社後の不安を払拭する努力が求められます。

4. 文化の相違を「組織の力」に変える姿勢を持つ

時間の概念や生活習慣のズレを「修正すべき欠点」と捉えるのではなく、多様な価値観として受容する度量が組織に求められます。外国人側に日本式を100%強要するのではなく、双方が歩み寄り、互いの文化のバリアを取り除く「組織開発」に投資すべきです。


キャリアフライジャパン株式会社

代表取締役 大野理恵

参考URL:

外国籍人材紹介サービス https://cf-japan.com/foreign_nationality_staffing/

外国籍エンジニア採用代行サービス -KUNOICHI- https://cf-japan.com/kunoichi/

外国進出支援サービス https://cf-japan.com/overseas_expansion/


キャリアフライジャパン株式会社について

キャリアフライジャパン株式会社は「雇用ボーダレスを社会スタンダードにする」をビジョンに掲げ、日本企業の人材戦略を多様性重視へと変革する企業です。国籍・年齢・性別といった枠にとらわれず、